最終更新日*2018/03/24*挿絵を追加

回想録

本編の後日談です。


第3話「新世界にて」

新世界=クリア後の世界。とある場所に、3人の男が集められました…



今回の登場人物

オレアル
第1回の彼とは同一人格で、本来の性質により近いのはこちらの姿。死神トリオの中では、人間観察の経験値が最も高い。
シヴァ
「ラートリーの庭」を妻とともに治めるかつての破壊神。家族愛にあふれるよき夫である。
ハデス
「タルタロス」で自宅に引きこもっていたかつての冥王。役職を解かれたのを喜んでいるが、相変わらずたいていのことには無関心。
バルドル
光とともに現れ、愛を説いては去っていく人気者。彼の公正さは非の打ちどころがなかったが、あまりにも純化されていたため評価が追い付かなかった。
ケルベロス
ハデスの愛犬。もはやただの犬となった今は、犬の特質である人好きな性質と、無意味に主人を求めてしまう惰性のみで生きている。
黒猫
ホロデッキこと遊戯室を開発管理する係員。何匹いるのか分からないが、遊戯室でプログラム(シナリオ)を作っている担当者は少なくとも5匹。作者のヘラは彼らに冗長性を与えたらしく、個体によって好みや欠点に違いがある。
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1- 死神トリオ、召集

COM 案内係
ようこそ、3次元仮想現実遊戯室へ。
どうぞごゆっくりお楽しみください。
オレアル
ここへ来るのは、あの騒動 >>註1 以来か…
オレアル
ん?
オレアル
どうしたんだご両人。こんな所で。
シヴァ
おお、オレアル殿。
奇遇だな。
ハデス
おやおや、またお会いしたのですね。
やはり我々は、お互い縁が深いようですな。
オレアル
ふむ。
類は友を呼ぶ、というわけか。
ハデス
オレアル、あなたはいつもその姿ですね。
子供の体でいることに、何か利点でも?
オレアル
ああ、特に理由はない。
なんなら、ご両人に合わせようか?
調整中… オレアル
ちょっと待っててくれ……
オレアル
さて。
これでいいかね?
シヴァ
ははは、これは見事。
手慣れているな。
オレアル
まぁ、誰に変身したところで、
騙せるのは人間の目だけだがな。
彼らが相手なら、名前を変えるだけでも十分だし。
ハデス
いやぁ、僕から見たら、神業だよ。
残念ながら、僕には弟ほどの才能がないからね。
ははは。
シヴァ
そうか?
君にはあの持ち場がとても似合っていると、
私には思えたが。
ハデス
まぁ、そう言われたら、そうかもね。
隠遁生活は苦にならないし、
忙殺されるなんてまっぴら御免だ。




ヒタヒタヒタ……

ガバッ!!
ハデス
うわわ!!??
ケルベロス
ご主人様!
僕もあの地獄が大好きだったのですワン!
ペロペロペロ!
ハデス
びっくりした!
急に飛びついてくるんじゃないよ、お前は。
オレアル
ああ、役に立たない番犬か。
シヴァ
かつて三界に名をとどろかせたケルベロスも、
いまやただの座敷犬だな。
ケルベロス
ペロペロペロ。
クゥ〜ン、フガフガ。
ハデス
わかった、わかった。
もう舐めまわすのはやめなさい。
びしょびしょだ。
(何しろ長い舌が3つもあるんだから…)
ハデス

こら、待ちなさい。
どこへ行くんだ?
オレアル
どうやら主従が逆転しているようだな。
シヴァ
犬に引きずられて歩いているぞ。



2- SFオタク、ケルベロス

黒猫
やあ、ごくろうさまです、ケル君。
ケルベロス
はい、お待たせしました!
ハデス
おや、保全監視課の方ですか。
なぜあなたがここに───
ハデス
ああそうか。
もう境界はなくなったんだものね。
黒猫
ええ。
遊戯室に入るにも面倒が無くなりましてね、
こうしてこの姿でここへやってきました。
オレアル
我々をここに招集したのは、お前か?
黒猫
はい。
皆さん、先日のバグ騒ぎでは大変お世話になりました。
改めてお礼を申し上げます。
ハデス
いやいや、こちらこそ、
君たちの知識と処理能力には
大いに助けられたよ。
さすがは、この遊戯室を開発した天才集団だね。
ケルベロス
その通りです! あの騒動のおかげで、
ご主人様と奥様も仲直りしたんですから!
シヴァ
それに、バグというが、あの騒動のおかげで、
ここの機能もスケールもアップグレードしたんじゃないのか?
黒猫
ええ、結果的にはね。
しかし我々技術者にとって、
「ケガの功名」は負けを意味します。
オレアル
想定外の成功は失敗に等しい、ということか。
お前さんたちもなかなか頑固だな。
黒猫
論理に徹しているだけですよ。
完全に正しい論理に基づいているなら、
想定しえない事態など起こりようがないでしょう。
オレアル
そうか、悪かったよ。
頑固だなんて、お前さんたちとは真逆にある、
感情に基づいた分析だったな。
黒猫
いいえ、ご指摘に感謝しますよ、オレアルさん。
我々にとってバグの発見は最上の報酬です。
ケルベロス
えええーー。
失敗すると、ご褒美がもらえるってこと?
そんなの、信じられない!
ハデス
いいやケルビー。
お前たちの失敗に罰を与えるのは、愚かな人間だけだ。
彼らは感情に基づいて行動するからね。
ケルベロス
そ、そうだったのか。いやー、
僕はご主人さまに仕えて幸せものだワン!
黒猫
ケル君、それも違いますね。
あなたのご主人はハデスさんではありません。
ケルベロス
へ?
じゃ、本当のご主人は、どこにいるのっ?!
黒猫
それは、論理です。
ケルベロス
ええーーー??
生きてる人でも神様でもなくて、論理ぃぃぃ???
ちょっと待って、そんなの僕には想像つかないよ!!
黒猫
あなたが思い描いている神様が偽物なんです。
神様とは本来、論理のことです。
ケルベロス
ねー、さっきから君さー、
論理論理言いすぎじゃない―?
まるで、あの耳のとがった異星人…、
そう、スポックみたいだ!
ハデス

スポックってなんだい、ケルビー。
ケルベロス
あのねご主人、それはですね、
僕がよく居間のTVで見てた、ドラマの話です。
人間たちが円盤みたいな宇宙船に乗って、
異星人と殴り合って友達になっていく話なの!
オレアル
殴り合って…?
ああ、あいつの話か…
ハデス
おまえ、居間でTVなんか見てたのか。
ケルベロス
だって、玄関に出て番をする必要はなくなったし、
ご主人も奥様も留守がちだったし、
他にすることがなかったんだもの―。
黒猫
君はSFに興味があるのですね、ケル君。
御見それしました。
それなら、君には十分に素地があると言えます。
ケルベロス
SFって言ってもね、高尚なのはダメだよ。
素手で殴りあったり、チャンバラやったり、
そういう分かりやすいのでないと。
シヴァ
科学と哲学を包括的に説明するための
方便のひとつがSFだからな。
そうした非科学的・非哲学的要素を取り込まなければ、
およそ一般には受け入れられなかっただろう。
ケルベロス
そうです。僕は基本的にはトレッキー >>註2 ですけど、
会話劇だけのドラマなら最後まで見ていられなかった。
でもね、ジェダイがときどき難しい話をするのも、
嫌いじゃないんです。うふふ。
黒猫
SF好きなら、TもWも両方見ますよね、ふつうは。
好みは分かれるでしょうが。
オレアル
お前がトレッキーとは意外だな。
そんなキャラには見えなかったぞ。
ケルベロス
ありがとうございます。
褒めてるんですよね?
オレアル
…………
ケルベロス
そういえば、この遊戯室によく似た部屋も出てきたなー。
黒猫
そうですよ。
ホロデッキ、あるいはホロスイートでしょう?
この遊戯室はそれを真似て作られています。
ケルベロス
うわー、そうだったの!??
ギャラクシー・クエスト >>註3 のタコ星人みたいだね!
すっごいなー♪
ケルベロス
……あれ?
それじゃ僕は、ホログラムのキャラクターなの?!!
そ、そんなぁぁぁあああ!!!
オレアル
やっと気づいたか…
黒猫
ええ。あのバグ騒動が起こるまでは、まさにそうでした。
しかし今は違います。あなたには実体があるのです。
ケルベロス
ええー、いつそんなことが起こったの??
僕には覚えがないんだけどー。
黒猫
正確には、虚像と実体を隔てていた
ある種の壁が消えたのです。
あなた自身に変化が起こったわけではない。
ハデス
虚像と実体か…。
ミュトスとロゴスの統合、だろうか?
黒猫
そのように考えることもできるでしょう。あるいは、
紐のねじれはある地点で限界となり、
逆回転して元通りになる──それが世界の顛末だ、
と言い表した人々もいましたね。
もちろん、ねじれていない紐こそが、論理の正しい姿です。
出発点と終着点は同じなのです。
オレアル
その詩を書いた詩人に知恵を授けたのは俺だよ。
黒猫
ああ、さようでしたか。
とにかくこの現象は、我々が理論上予想していた
到達点の一つなのです。したがって、もっと正確に、
もっと詳細に予想することが可能でした。
しかしそれができずに終わった。
これはとても残念なことです。
シヴァ
そんなことはない。
予想ができていたのなら、大したものだ。
黒猫
そういうわけで、我々としては、
あの現象が発生した当時の状況を、
徹底的に調査したいのです。
オレアル
それで、俺たちを招集したのか。
ハデス
当時の状況といってもねぇ…
僕は、ただ妻に振り回されてただけだから。
シヴァ
右に同じだな。
オレアル
ふむ。彼女たちの行動と、
バグの発生には何か関連があったのか?
黒猫
ええ、すでにお二人にはお話を伺いましたが、
特に新しい情報は得られませんでした。
オレアル
そうか…
ケルベロス
あ!
そうだ、思い出したぞ!
黒猫
何をですか、ケル君?
ハデス
パーシィに何が起こったのか、
覚えているのかい?
ケルベロス
なんか小さな生命体が、美女に化けて、
エンタープライズをネックレスにしちゃう話が、
あったよね?!
オレアル
は?
ハデス
小さな生命体って、何だい?
黒猫
ああ、TOSのエピソードですね。
異星人が、わざわざ地球の中世を
再現してクルーたちをもてなすという、
わりとよくあるパターンのお話です。
シヴァ
トス…?
オレアル
最初のシリーズの呼称のひとつだ。
正確には、The Original Series。
ケルベロス
おや?!
オレアルさん、あなたもトレッキーでしたか!♪
いやあ、僕のお気に入りはVOY >>註4 なんですけど、
やっぱり原点はTOSですからねー!
オレアル
俺も人間に関わりすぎたな……
ハデス
今はドラマの話はしていないよ、ケルビー…
ケルベロス
ごめんなさいご主人!
でもね、これだけは、どうしても、
黒猫くんに聞いておきたいんだよ!
黒猫
きっと彼の聞きたいことは、こうでしょう。
──小さな生命体は美女に化けたが、 最後は巨大な黒猫に化けて襲ってくるのです。 私が、ホロデッキを模して遊戯室を作るくらいのトレッキーなら、 その黒猫にあやかってこの姿になったのだろう。
……というようなことでしょう?
ケルベロス
う、うん!!!
そうっ!!!
黒猫
目の付け所はいいですが、残念ながら違います。
私の姿は、ヘラ様がお決めになったものです。
そもそも我々は、ニヴルヘル内の小間使いとして
作られたものですから。
ケルベロス
ええっ!?
ヘラ様も、トレッキーなのっ?!!
ハデス
……ケルビー。
ちょっと向こうへ行っててくれないかな?
シヴァ
そういえば、ヘラ殿は何か仰っていたのか?
黒猫
いいえ。この件に関しては何も。
オレアル
そうだろう。
彼女は大筋では経緯を知っている。
しかし君たちが知りたいレベルの、
些末なことは知らないんだ。
オレアル
そうだ。
……むしろあいつなら、
君たちの知りたいことを知っているかもしれない。
黒猫
どなたです?
オレアル
バルドルだよ。
奴は、騒動の最中はニヴルヘルにいたはずだ。
おそらく事態の収拾と同時に、
ここを去ったと思われる。
シヴァ
おお、そうか。
彼を呼び出せるか?
オレアル
ああ、もちろん。



3 - バルドル独演会



……召喚中……


バルドル
キラキラキラ〜ン☆彡
スタッ!ヽ(^o^)丿
バルドル
やっほー♪
皆さん、お元気?
オレアル
………
相変わらず無駄な演出が多いな。
ケルベロス
わーい♪♪
あなたがバルドル様ですか!
初めましてっ!!
バルドル
こちらこそ!
本来の姿の君にこうして会えて、
とっても嬉しいよ、ケルビー♪

……あっと、顔を舐めまわされるのは
遠慮しておくよ!
ハデス
ほほう。
さすがに、何でもお見通しの御仁だね。
黒猫
早速ですがバルドルさん。
事情聴取をお願いしたいのです。
バルドル
やあ、論理の申し子よ!
あれー? まさか君、いまだにデバッグ作業を
続けてるんじゃなかろうね?!
黒猫
……いいえ。
今はしておりません。
バルドル
だろうね! だって論理は完成して、
バグは無くなっちゃったんだものね?!
だったら君、もっと嬉しそうにしたらどう?

あっ! それとも、もしかして、
「バグがあったほうがよかったなー」、
とか思ってる?!!
黒猫
……うぐぐ。
ケルベロス
あれれー。
黒猫くんが言い淀んでる!!
こいつはたまげたぁ!!
ハデス
図星をつかれたかな?
バルドル
きみは検証したいって言ってるけど、
要はデバッグ作業をまたやりたいんだよ。
でもねえ黒猫くん、それって、
ただの惰性じゃない?
黒猫
………はっ。
バルドル
気がついたようだね。
いいんだよ、新しい世界に慣れるまでは、
何らかの形で過去を引きずる者も多い。
慣れ親しんだ世界を、
突然奪われたも同然だからね。
黒猫
………
バルドル
オーケー。
君が言いたいことはよくわかるよ。
こうでしょ?
「だったらどうしろっていうんだ!!
俺にはデバッグ作業しかないんだよ!!」
黒猫
………
バルドル
そこでだ。
この新しい世界では、君に命令を下す主人はいない。
じゃ、何に従って行動するのか?

………君には、分かってるよね?
黒猫
………はい。
それは、論理です。
バルドル
そう!
でもこれは、旧世界の、バグまみれの
論理とは別物だよ? あんなもの、
信じろと言われても誰も信じなかったからね、
あはは。
バルドル
あの時代の論理は真っ赤な偽物。
本物の論理は、決して表に出てこなかった。
表層のミュトスと、深層のロゴスさ。
ロゴスを語る者は卑下され、
表層の煩いごとに右往左往する生活こそが、
人生だと言われていたんだ。
ああ、なんて恐ろしい世界だろうね!
バルドル
君たちがあの世界で、来る日も来る日も
デバッグに追われていたことは、ある意味で正しい。
それは論理を完成させるための道だったし、
必要欠くべからざる仕事だった。

でも、その時代はもう終わったんだ!
つまり、論理は完成を見たのだよ!
バルドル
だから、もう同じ態度で臨んじゃダメなんだ。
だってここは新世界だよ?

さあ、高らかに宣言したまえ!
Hello, New World! とね!
黒猫
………
黒猫
………
Hello, ……New World!
バルドル
オーケー♪
なんてすばらしいアウトプットだ!

見たまえ、ロゴスは完全体になった!
彼こそが、信じるに値する論理だ。
だって、間違いがないんだから!
そりゃそうさ!
君たちが懸命にデバッグを繰り返した結果だもんね!
黒猫
…………
黒猫
OK, Master!
ケルベロス
あれあれー?
黒猫くんの様子がヘンだよー?
バルドル
わかってくれたみたいだね!

それじゃこれで帰るよ〜。
皆さん、お元気で〜〜(^^)/
バルドル
キラーーーン☆彡
ケルベロス
はー。
バルドル様って、あんな
マシンガントーク・キャラなんだ〜…
オレアル
弁舌は一流だからな。
あの調子で数々の調停を成功させてきたのさ。
シヴァ
恐れ入ったな。
こんどカーリーが暴走したら、
ぜひ彼に仲裁を頼もう。
ハデス
おお!
私のところでも、是非!
ケルベロス
…………
ケルベロス
黒猫くん、だいじょうぶ?
さっきから黙りすぎじゃない?
ケルベロス
…………
ケルベロス
ねーねー。
もっとスタトレの話しようよ!
君のお気に入りのキャラってだれ?

僕はねー、うーんと、うーんと、
迷っちゃうなー…
オレアル
ケルベロス、そっとしておいてやれ。
奴は今、心の整理を…
黒猫
………
セブン・オブ・ナインでしょう。
ケルベロス
え?
オレアル
ん?
ケルベロス
す、すごいワン!
どうして僕の一番好きなキャラが、
わかったの―??!
黒猫
あなたはさっき、
VOYがお気に入りだと言ったでしょう。
そこから先は、あなたの言動と、
性質の分析から予測したのです。
黒猫
娯楽性の強いものを好み、
れっきとした強さを求める性質で、
なおかつ組織的形態にも親しみがある。
これらの条件に最もかなうのは、
彼女だと判断しました。
ケルベロス
す、すごい! さすが!
じゃ、じゃあ、今度は僕が当てちゃうからね!
えーと、えーと…
オレアル
………
これだからオタクどもは……。
〜〜おしまい〜〜

【註釈】

1 あの騒動
遊戯室のホロ・キャラクターたちが外界へ脱走した事件。危機的事態は収拾されたが、大規模な統合が世界を覆ったため、遊戯室と外界との壁はもはや修復不可能。

2 トレッキー
スタートレック・ファンの意。

3 ギャラクシー・クエスト
SFドラマの内容を真に受けて宇宙船まで作ってしまうクソ真面目な宇宙人が、ドラマの出演者たちに助けを求めてやってくるという、虚実入り乱れたパロディ映画。スタートレックの入門映画として勧められたりもする。

4 VOY
スタートレックのTVシリーズの一つ「Voyager」の略称。明快なテーマと、先進テクノロジー満載でテンポよく進む内容から、TNG(The Next Generation)と並んで初心者に勧められることが多い。




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