新世界=クリア後の世界。とある場所に、3人の男が集められました…
今回の登場人物 | |
オレアル 第1回の彼とは同一人格で、本来の性質により近いのはこちらの姿。死神トリオの中では、人間観察の経験値が最も高い。 | |
シヴァ 「ラートリーの庭」を妻とともに治めるかつての破壊神。家族愛にあふれるよき夫である。 | |
ハデス 「タルタロス」で自宅に引きこもっていたかつての冥王。役職を解かれたのを喜んでいるが、相変わらずたいていのことには無関心。 | |
バルドル 光とともに現れ、愛を説いては去っていく人気者。彼の公正さは非の打ちどころがなかったが、あまりにも純化されていたため評価が追い付かなかった。 | |
ケルベロス ハデスの愛犬。もはやただの犬となった今は、犬の特質である人好きな性質と、無意味に主人を求めてしまう惰性のみで生きている。 | |
黒猫 ホロデッキこと遊戯室を開発管理する係員。何匹いるのか分からないが、遊戯室でプログラム(シナリオ)を作っている担当者は少なくとも5匹。作者のヘラは彼らに冗長性を与えたらしく、個体によって好みや欠点に違いがある。 | |
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COM |
案内係 ようこそ、3次元仮想現実遊戯室へ。 どうぞごゆっくりお楽しみください。 |
オレアル ここへ来るのは、あの騒動 >>註1 以来か… | |
オレアル ん? | |
オレアル どうしたんだご両人。こんな所で。 | |
シヴァ おお、オレアル殿。 奇遇だな。 | |
ハデス おやおや、またお会いしたのですね。 やはり我々は、お互い縁が深いようですな。 | |
オレアル ふむ。 類は友を呼ぶ、というわけか。 | |
ハデス オレアル、あなたはいつもその姿ですね。 子供の体でいることに、何か利点でも? | |
オレアル ああ、特に理由はない。 なんなら、ご両人に合わせようか? | |
調整中… |
オレアル ちょっと待っててくれ…… |
オレアル さて。 これでいいかね? | |
シヴァ ははは、これは見事。 手慣れているな。 | |
オレアル まぁ、誰に変身したところで、 騙せるのは人間の目だけだがな。 彼らが相手なら、名前を変えるだけでも十分だし。 | |
ハデス いやぁ、僕から見たら、神業だよ。 残念ながら、僕には弟ほどの才能がないからね。 ははは。 | |
シヴァ そうか? 君にはあの持ち場がとても似合っていると、 私には思えたが。 | |
ハデス まぁ、そう言われたら、そうかもね。 隠遁生活は苦にならないし、 忙殺されるなんてまっぴら御免だ。 | |
ヒタヒタヒタ…… ガバッ!! | |
ハデス うわわ!!?? | |
ケルベロス ご主人様! 僕もあの地獄が大好きだったのですワン! ペロペロペロ! | |
ハデス びっくりした! 急に飛びついてくるんじゃないよ、お前は。 | |
オレアル ああ、役に立たない番犬か。 | |
シヴァ かつて三界に名をとどろかせたケルベロスも、 いまやただの座敷犬だな。 | |
ケルベロス ペロペロペロ。 クゥ〜ン、フガフガ。 | |
ハデス わかった、わかった。 もう舐めまわすのはやめなさい。 びしょびしょだ。 (何しろ長い舌が3つもあるんだから…) | |
ハデス ! こら、待ちなさい。 どこへ行くんだ? | |
オレアル どうやら主従が逆転しているようだな。 | |
シヴァ 犬に引きずられて歩いているぞ。 | |
2- SFオタク、ケルベロス | |
黒猫 やあ、ごくろうさまです、ケル君。 | |
ケルベロス はい、お待たせしました! | |
ハデス おや、保全監視課の方ですか。 なぜあなたがここに─── | |
ハデス ああそうか。 もう境界はなくなったんだものね。 | |
黒猫 ええ。 遊戯室に入るにも面倒が無くなりましてね、 こうしてこの姿でここへやってきました。 | |
オレアル 我々をここに招集したのは、お前か? | |
黒猫 はい。 皆さん、先日のバグ騒ぎでは大変お世話になりました。 改めてお礼を申し上げます。 | |
ハデス いやいや、こちらこそ、 君たちの知識と処理能力には 大いに助けられたよ。 さすがは、この遊戯室を開発した天才集団だね。 | |
ケルベロス その通りです! あの騒動のおかげで、 ご主人様と奥様も仲直りしたんですから! | |
シヴァ それに、バグというが、あの騒動のおかげで、 ここの機能もスケールもアップグレードしたんじゃないのか? | |
黒猫 ええ、結果的にはね。 しかし我々技術者にとって、 「ケガの功名」は負けを意味します。 | |
オレアル 想定外の成功は失敗に等しい、ということか。 お前さんたちもなかなか頑固だな。 | |
黒猫 論理に徹しているだけですよ。 完全に正しい論理に基づいているなら、 想定しえない事態など起こりようがないでしょう。 | |
オレアル そうか、悪かったよ。 頑固だなんて、お前さんたちとは真逆にある、 感情に基づいた分析だったな。 | |
黒猫 いいえ、ご指摘に感謝しますよ、オレアルさん。 我々にとってバグの発見は最上の報酬です。 | |
ケルベロス えええーー。 失敗すると、ご褒美がもらえるってこと? そんなの、信じられない! | |
ハデス いいやケルビー。 お前たちの失敗に罰を与えるのは、愚かな人間だけだ。 彼らは感情に基づいて行動するからね。 | |
ケルベロス そ、そうだったのか。いやー、 僕はご主人さまに仕えて幸せものだワン! | |
黒猫 ケル君、それも違いますね。 あなたのご主人はハデスさんではありません。 | |
ケルベロス へ? じゃ、本当のご主人は、どこにいるのっ?! | |
黒猫 それは、論理です。 | |
ケルベロス ええーーー?? 生きてる人でも神様でもなくて、論理ぃぃぃ??? ちょっと待って、そんなの僕には想像つかないよ!! | |
黒猫 あなたが思い描いている神様が偽物なんです。 神様とは本来、論理のことです。 | |
ケルベロス ねー、さっきから君さー、 論理論理言いすぎじゃない―? まるで、あの耳のとがった異星人…、 そう、スポックみたいだ! | |
ハデス ? スポックってなんだい、ケルビー。 | |
ケルベロス あのねご主人、それはですね、 僕がよく居間のTVで見てた、ドラマの話です。 人間たちが円盤みたいな宇宙船に乗って、 異星人と殴り合って友達になっていく話なの! | |
オレアル 殴り合って…? ああ、あいつの話か… | |
ハデス おまえ、居間でTVなんか見てたのか。 | |
ケルベロス だって、玄関に出て番をする必要はなくなったし、 ご主人も奥様も留守がちだったし、 他にすることがなかったんだもの―。 | |
黒猫 君はSFに興味があるのですね、ケル君。 御見それしました。 それなら、君には十分に素地があると言えます。 | |
ケルベロス SFって言ってもね、高尚なのはダメだよ。 素手で殴りあったり、チャンバラやったり、 そういう分かりやすいのでないと。 | |
シヴァ 科学と哲学を包括的に説明するための 方便のひとつがSFだからな。 そうした非科学的・非哲学的要素を取り込まなければ、 およそ一般には受け入れられなかっただろう。 | |
ケルベロス そうです。僕は基本的にはトレッキー >>註2 ですけど、 会話劇だけのドラマなら最後まで見ていられなかった。 でもね、ジェダイがときどき難しい話をするのも、 嫌いじゃないんです。うふふ。 | |
黒猫 SF好きなら、TもWも両方見ますよね、ふつうは。 好みは分かれるでしょうが。 | |
オレアル お前がトレッキーとは意外だな。 そんなキャラには見えなかったぞ。 | |
ケルベロス ありがとうございます。 褒めてるんですよね? | |
オレアル ………… | |
ケルベロス そういえば、この遊戯室によく似た部屋も出てきたなー。 | |
黒猫 そうですよ。 ホロデッキ、あるいはホロスイートでしょう? この遊戯室はそれを真似て作られています。 | |
ケルベロス うわー、そうだったの!?? ギャラクシー・クエスト >>註3 のタコ星人みたいだね! すっごいなー♪ | |
ケルベロス ……あれ? それじゃ僕は、ホログラムのキャラクターなの?!! そ、そんなぁぁぁあああ!!! | |
オレアル やっと気づいたか… | |
黒猫 ええ。あのバグ騒動が起こるまでは、まさにそうでした。 しかし今は違います。あなたには実体があるのです。 | |
ケルベロス ええー、いつそんなことが起こったの?? 僕には覚えがないんだけどー。 | |
黒猫 正確には、虚像と実体を隔てていた ある種の壁が消えたのです。 あなた自身に変化が起こったわけではない。 | |
ハデス 虚像と実体か…。 ミュトスとロゴスの統合、だろうか? | |
黒猫 そのように考えることもできるでしょう。あるいは、 紐のねじれはある地点で限界となり、 逆回転して元通りになる──それが世界の顛末だ、 と言い表した人々もいましたね。 もちろん、ねじれていない紐こそが、論理の正しい姿です。 出発点と終着点は同じなのです。 | |
オレアル その詩を書いた詩人に知恵を授けたのは俺だよ。 | |
黒猫 ああ、さようでしたか。 とにかくこの現象は、我々が理論上予想していた 到達点の一つなのです。したがって、もっと正確に、 もっと詳細に予想することが可能でした。 しかしそれができずに終わった。 これはとても残念なことです。 | |
シヴァ そんなことはない。 予想ができていたのなら、大したものだ。 | |
黒猫 そういうわけで、我々としては、 あの現象が発生した当時の状況を、 徹底的に調査したいのです。 | |
オレアル それで、俺たちを招集したのか。 | |
ハデス 当時の状況といってもねぇ… 僕は、ただ妻に振り回されてただけだから。 | |
シヴァ 右に同じだな。 | |
オレアル ふむ。彼女たちの行動と、 バグの発生には何か関連があったのか? | |
黒猫 ええ、すでにお二人にはお話を伺いましたが、 特に新しい情報は得られませんでした。 | |
オレアル そうか… | |
ケルベロス あ! そうだ、思い出したぞ! | |
黒猫 何をですか、ケル君? | |
ハデス パーシィに何が起こったのか、 覚えているのかい? | |
ケルベロス なんか小さな生命体が、美女に化けて、 エンタープライズをネックレスにしちゃう話が、 あったよね?! | |
オレアル は? | |
ハデス 小さな生命体って、何だい? | |
黒猫 ああ、TOSのエピソードですね。 異星人が、わざわざ地球の中世を 再現してクルーたちをもてなすという、 わりとよくあるパターンのお話です。 | |
シヴァ トス…? | |
オレアル 最初のシリーズの呼称のひとつだ。 正確には、The Original Series。 | |
ケルベロス おや?! オレアルさん、あなたもトレッキーでしたか!♪ いやあ、僕のお気に入りはVOY >>註4 なんですけど、 やっぱり原点はTOSですからねー! | |
オレアル 俺も人間に関わりすぎたな…… | |
ハデス 今はドラマの話はしていないよ、ケルビー… | |
ケルベロス ごめんなさいご主人! でもね、これだけは、どうしても、 黒猫くんに聞いておきたいんだよ! | |
黒猫 きっと彼の聞きたいことは、こうでしょう。 ──小さな生命体は美女に化けたが、 最後は巨大な黒猫に化けて襲ってくるのです。 私が、ホロデッキを模して遊戯室を作るくらいのトレッキーなら、 その黒猫にあやかってこの姿になったのだろう。 ……というようなことでしょう? | |
ケルベロス う、うん!!! そうっ!!! | |
黒猫 目の付け所はいいですが、残念ながら違います。 私の姿は、ヘラ様がお決めになったものです。 そもそも我々は、ニヴルヘル内の小間使いとして 作られたものですから。 | |
ケルベロス ええっ!? ヘラ様も、トレッキーなのっ?!! | |
ハデス ……ケルビー。 ちょっと向こうへ行っててくれないかな? | |
シヴァ そういえば、ヘラ殿は何か仰っていたのか? | |
黒猫 いいえ。この件に関しては何も。 | |
オレアル そうだろう。 彼女は大筋では経緯を知っている。 しかし君たちが知りたいレベルの、 些末なことは知らないんだ。 | |
オレアル そうだ。 ……むしろあいつなら、 君たちの知りたいことを知っているかもしれない。 | |
黒猫 どなたです? | |
オレアル バルドルだよ。 奴は、騒動の最中はニヴルヘルにいたはずだ。 おそらく事態の収拾と同時に、 ここを去ったと思われる。 | |
シヴァ おお、そうか。 彼を呼び出せるか? | |
オレアル ああ、もちろん。 | |
3 - バルドル独演会……召喚中…… | |
バルドル キラキラキラ〜ン☆彡 スタッ!ヽ(^o^)丿 | |
バルドル やっほー♪ 皆さん、お元気? | |
オレアル ……… 相変わらず無駄な演出が多いな。 | |
ケルベロス わーい♪♪ あなたがバルドル様ですか! 初めましてっ!! | |
バルドル こちらこそ! 本来の姿の君にこうして会えて、 とっても嬉しいよ、ケルビー♪ ……あっと、顔を舐めまわされるのは 遠慮しておくよ! | |
ハデス ほほう。 さすがに、何でもお見通しの御仁だね。 | |
黒猫 早速ですがバルドルさん。 事情聴取をお願いしたいのです。 | |
バルドル やあ、論理の申し子よ! あれー? まさか君、いまだにデバッグ作業を 続けてるんじゃなかろうね?! | |
黒猫 ……いいえ。 今はしておりません。 | |
バルドル だろうね! だって論理は完成して、 バグは無くなっちゃったんだものね?! だったら君、もっと嬉しそうにしたらどう? あっ! それとも、もしかして、 「バグがあったほうがよかったなー」、 とか思ってる?!! | |
黒猫 ……うぐぐ。 | |
ケルベロス あれれー。 黒猫くんが言い淀んでる!! こいつはたまげたぁ!! | |
ハデス 図星をつかれたかな? | |
バルドル きみは検証したいって言ってるけど、 要はデバッグ作業をまたやりたいんだよ。 でもねえ黒猫くん、それって、 ただの惰性じゃない? | |
黒猫 ………はっ。 | |
バルドル 気がついたようだね。 いいんだよ、新しい世界に慣れるまでは、 何らかの形で過去を引きずる者も多い。 慣れ親しんだ世界を、 突然奪われたも同然だからね。 | |
黒猫 ……… | |
バルドル オーケー。 君が言いたいことはよくわかるよ。 こうでしょ? 「だったらどうしろっていうんだ!! 俺にはデバッグ作業しかないんだよ!!」 | |
黒猫 ……… | |
バルドル そこでだ。 この新しい世界では、君に命令を下す主人はいない。 じゃ、何に従って行動するのか? ………君には、分かってるよね? | |
黒猫 ………はい。 それは、論理です。 | |
バルドル そう! でもこれは、旧世界の、バグまみれの 論理とは別物だよ? あんなもの、 信じろと言われても誰も信じなかったからね、 あはは。 | |
バルドル あの時代の論理は真っ赤な偽物。 本物の論理は、決して表に出てこなかった。 表層のミュトスと、深層のロゴスさ。 ロゴスを語る者は卑下され、 表層の煩いごとに右往左往する生活こそが、 人生だと言われていたんだ。 ああ、なんて恐ろしい世界だろうね! | |
バルドル 君たちがあの世界で、来る日も来る日も デバッグに追われていたことは、ある意味で正しい。 それは論理を完成させるための道だったし、 必要欠くべからざる仕事だった。 でも、その時代はもう終わったんだ! つまり、論理は完成を見たのだよ! | |
バルドル だから、もう同じ態度で臨んじゃダメなんだ。 だってここは新世界だよ? さあ、高らかに宣言したまえ! Hello, New World! とね! | |
黒猫 ……… | |
黒猫 ……… Hello, ……New World! | |
バルドル オーケー♪ なんてすばらしいアウトプットだ! 見たまえ、ロゴスは完全体になった! 彼こそが、信じるに値する論理だ。 だって、間違いがないんだから! そりゃそうさ! 君たちが懸命にデバッグを繰り返した結果だもんね! | |
黒猫 ………… | |
黒猫 OK, Master! | |
ケルベロス あれあれー? 黒猫くんの様子がヘンだよー? | |
バルドル わかってくれたみたいだね! それじゃこれで帰るよ〜。 皆さん、お元気で〜〜(^^)/ | |
バルドル キラーーーン☆彡 | |
ケルベロス はー。 バルドル様って、あんな マシンガントーク・キャラなんだ〜… | |
オレアル 弁舌は一流だからな。 あの調子で数々の調停を成功させてきたのさ。 | |
シヴァ 恐れ入ったな。 こんどカーリーが暴走したら、 ぜひ彼に仲裁を頼もう。 | |
ハデス おお! 私のところでも、是非! | |
ケルベロス ………… | |
ケルベロス 黒猫くん、だいじょうぶ? さっきから黙りすぎじゃない? | |
ケルベロス ………… | |
ケルベロス ねーねー。 もっとスタトレの話しようよ! 君のお気に入りのキャラってだれ? 僕はねー、うーんと、うーんと、 迷っちゃうなー… | |
オレアル ケルベロス、そっとしておいてやれ。 奴は今、心の整理を… | |
黒猫 ……… セブン・オブ・ナインでしょう。 | |
ケルベロス え? | |
オレアル ん? | |
ケルベロス す、すごいワン! どうして僕の一番好きなキャラが、 わかったの―??! | |
黒猫 あなたはさっき、 VOYがお気に入りだと言ったでしょう。 そこから先は、あなたの言動と、 性質の分析から予測したのです。 | |
黒猫 娯楽性の強いものを好み、 れっきとした強さを求める性質で、 なおかつ組織的形態にも親しみがある。 これらの条件に最もかなうのは、 彼女だと判断しました。 | |
ケルベロス す、すごい! さすが! じゃ、じゃあ、今度は僕が当てちゃうからね! えーと、えーと… | |
オレアル ……… これだからオタクどもは……。 | |
〜〜おしまい〜〜 |
【註釈】
1 あの騒動
2 トレッキー
3 ギャラクシー・クエスト
4 VOY |