沈黙神到来前夜。彼を待つ人、迎えに行く人、知らないままの人たち。それぞれの思惑にはおかまいなしに、彼はやってくるのです。
今回の登場人物 | |
ユマー 飲んだくれの年老いた詩人。かつては王のもとで要職についていたらしいが、そのころの面影はない。 | |
サキー ユマーの従者。仕事は酒酌みと話を聞くこと。 | |
ヴァーリ 子供の心を持った弓の天才。もともとは復讐のために生まれてきたが、彼にはその後も役目があった。 | |
オレアル 今回はヴィーダルを迎えに行く使者として登場。 | |
グレーテ オレアルに随行する御役を勤める。 | |
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ヴァーリ わー、いい天気だなぁー! | |
ヴァーリ 話には聞いてたけど、 こんなに空の色が変わるなんて! びっくりしちゃうよ、まったく! | |
ヴァーリ それなのに、 世の人々は静かだなぁ。 | |
ヴァーリ ……… みんな、空なんて見ないんだよねぇ。 うーん… | |
??? おお、心ある若造よ。 お前さんの言うとおりじゃ! | |
ヴァーリ え? | |
??? うー、ひっく。 まったく、どいつもこいつも情けない! うぃぃぃー。 有史始まって以来のこの大変化に、 誰もかれも無関心とはのう! | |
??? うぇーーっぷ。 お前さんのような、子供のような感受性を、 いったいどこで捨ててきてしまったのか! | |
ヴァーリ やー、見知らぬおじいさん、ありがとう! でもこの ずいぶん酔ってらっしゃいますね? 足がふらついてますよ、気をつけて! | |
??? なんじゃと? お前も、そのようなくだらぬ説教をするのか?! ええい、わしとしたことがなんたる不覚、 ひどい見込み違いじゃったわい!! | |
ヴァーリ え?……は、はい、 なんだか分からないけど、 ごめんなさい…… | |
??? ………… | |
ヴァーリ ん? おじいさん。大丈夫? | |
??? ………… んごごごごごーーー… | |
ヴァーリ あれー。 寝ちゃったの―? | |
??? すぴーー。 ぐががーーー。 | |
ヴァーリ もー、だめですよ、 こんな所で寝てちゃあ! | |
サキー ユマー様。 こんなところにいらしたんですか。 | |
ヴァーリ あ、あれ? 兄さん?! どうしてここに…?? | |
ヴァーリ い、いや、そうじゃないみたい。 兄さんはもう子供じゃないはず… だとしたら、君はいったい??? | |
サキー ユマー様を介抱してくれたのですね、 どうもありがとう。 あとは僕が見ますから、もう大丈夫ですよ。 | |
ヴァーリ ユマー様って、このおじいさんのこと? 君は、お孫さんかな? | |
サキー ええ……まぁ、 そんなようなものです。 さあ、ユマー様、起きてください。 ほら、新しいお酒を酌んできましたよ! | |
ユマー ──── がばっ!!! | |
ヴァーリ わっ!! 急に起き上がった! | |
ユマー ぐびぐびぐびぐび…… ぷはぁーー! おお、生き返ったわい!! | |
ヴァーリ …… だ、大丈夫かなぁ? | |
ユマー よしよし、サキーや。 今日もお前のおかげで生き返ったわい。 ほれ、あの泉のほとりで、 呑みなおしじゃ! | |
サキー はいはい。 | |
ヴァーリ それにしてもあの子、 まるで兄さんの生き写しだ。 いったいどうなってるんだろう? | |
ヴァーリ あのアル中おじいさんも心配だし。 ここはひとつ、こっそりついて行って、 様子を見るとしよう…… | |
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ユマー おお、見なさいサキーや、 この水面の色を! | |
サキー はい。 見事に空の色を映していますね。 | |
ユマー そうじゃそうじゃ、この空、この水の色! これを見れば一目瞭然じゃ! “彼”がすぐ近くまでやってきていることは、 目の開いたばかりの赤子でも判るだろうに! | |
サキー その通りです、ユマー様。 | |
ヴァーリ うんん? “彼”って、誰のことだろう? | |
ユマー 地位を捨て、国を捨て、名をも捨てて、 この旅路をたどり始めて幾星霜…… わしの人生は、明けても暮れても、 ひたすら彼を信じ、探し求めることだけだった。 その人生も終わろうかという今、 “彼”がとうとうやってくる…… | |
ユマー ああ、わしは仕合わせ者じゃ。 最後の最後に、 なにもかも報われて死ねるのだからのぅ。 | |
サキー ……… | |
ヴァーリ もしかして、 兄さんのことを言ってるのかな? 人間のなかでも、 たま〜〜にいるらしいからね、 “分かっちゃってる”人が……。 | |
ユマー ぐびぐびぐび……。 ……ああ、もう酒瓶を空けてしもうたわ。 サキーや、やはりお前の酌で呑む酒は格別じゃのう、 水でも飲んでいるかのようじゃわい、 はっはっは! | |
サキー それじゃ、また酌んできましょう。 こんどは、ふらふらと出歩かないでくださいね? | |
ヴァーリ えー。まだ飲ませるの―? とんだウワバミじいさんだなぁ! | |
ヴァーリ ───あ! ちょっと君! | |
サキー ああ、さっきの方ですか。 なにかご用でしょうか? | |
ヴァーリ ごめんねー。君たちのことが、 すっっっごく気になったもんだから、 隠れて話を聞いていたんだよ。 | |
サキー そうですか、べつに構いませんよ。 ユマー様が詩を吟じれば、 自然と聴衆が集まってくるのはよくあることです。 | |
ヴァーリ へええー。あのアル中じいさんが? それじゃやっぱり、 “分かっちゃってる”人なのかなっ? | |
サキー は? | |
ヴァーリ あのじいさんが言う“彼”って、 沈黙神のことじゃないの? そう、沈黙と森の神ヴィーダル ───僕の兄さんのことだけど。 | |
サキー 兄さん? それじゃあなたが、 沈黙神の弟なのですか? | |
ヴァーリ あははー♪ そうは見えないって? だって僕は、兄さんの翻訳機だもの! おしゃべりでお節介なのは生まれつきさ! | |
サキー 翻訳機、ですか。 | |
ヴァーリ えっへん! なんてったって、兄さんと意思疎通ができるのは、 この世でただ一人、この僕だけなんだから! | |
サキー そうでしたか。 それじゃ、この僕を見て、 何か気付かれることがあったのでは? | |
ヴァーリ え? あ、ああ、うん! もちろんだよ、気付くなんてもんじゃない、 だって君のその姿─── | |
サキー ああ、よかった。 僕は、あなたの兄と同じ姿をしているのですね? | |
ヴァーリ うん! 子供のころの兄さんだよ、君はまさに! | |
ヴァーリ ───って、どういうことなの、これ? 分かるように説明してくれる?? | |
サキー あなたなら話してもよさそうだ。 率直に説明しましょう。─── 僕は、ユマー様の願望が作り出した、 一種の人形なんです。 それは、沈黙神に会いたいという、 生涯をかけた願望でした。 | |
ヴァーリ ああー、そういうことかー。 それで、兄さんにそっくりなんだね? | |
サキー でも、ユマー様は僕の正体を知りません。 ごくふつうの子供だと思っているし、 僕が沈黙神にそっくりだってことも、 ぜんぜん気づいてない。 | |
ユマー おぉいぃ、サキーや。 新しい酒はまだかいのう…… | |
サキー いけない、もう行かなくちゃ。 それじゃ、お使いに行ってきます。 さよなら、翻訳機さん。 | |
ヴァーリ え? う、うん。またね! | |
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オレアル ふうん。 なるほどな… | |
グレーテ どうした? | |
オレアル いや… このあたりも、ずいぶん景色が変わったよ。 あの広大な泉は、いつ出現したんだ? | |
グレーテ さあ? 私はここへ来るのは初めてだ。 | |
グレーテ ……おや? 向こうから、知った顔が歩いてくるぞ。 | |
オレアル ん? | |
ヴァーリ うわーーー\(^o^)/ お二人さーーーん♪♪♪ | |
オレアル あいつか… | |
ヴァーリ どうしたのー? 今日は二人揃ってー?? | |
オレアル 相変わらず機嫌がいいな、けっこうなことだ。 お前も、兄貴を迎えに来たのか? | |
ヴァーリ は?? | |
オレアル 違うのか? 別に構わんぞ。 俺と彼女がいれば、手は足りる。 | |
ヴァーリ い、いや、ちょっと待って。 それって、今日なの?!! もしかして僕が忘れてただけ?! | |
グレーテ 現にこうして来ているではないか。 | |
ヴァーリ うわー、そいつはたまげたなぁー。 ちょっと進捗が速くないですかぁ? | |
オレアル そうだよ。いまや人間たちだって、 指数関数だの量子的だの収穫加速だのと、 新しい概念を急速に理解し始めているんだからな。 ───そういうわけで、俺たちは先を急ぐぞ。 | |
ヴァーリ そ、そうですか、 それじゃ、あとはよろしく… | |
ヴァーリ ───あれ? ちょっと待って。 兄さんが来ちゃったら、 あのお人形さんはどうなるんだろう? | |
オレアル 人形? | |
ヴァーリ そうそう。 兄さんに会いたい会いたいと願い続けた人が、 その思いだけで作っちゃった、 思念体のお人形さんだよ。 | |
グレーテ タルパか。 | |
ヴァーリ そうなのかな、僕も初めて見たんだけど。 でもとにかく、本物の兄さんが来ちゃったら、 あの子は偽物ってことになっちゃう。 そしたらあの子は…… 用済みってことになっちゃうでしょ?! | |
オレアル さあ。 それはその時になってみないと、 分からないな。 | |
ヴァーリ もー。 君は無責任だなー! | |
グレーテ 作り主の思念が変われば、 タルパも無事では済まないだろう。 だが、待ち望んだ本物が来るのだから、 代理品が用済みになるのは、 むしろ歓迎すべきではないのか? | |
ヴァーリ ちょっとーー! 君までがそんな冷たいこと言うのーー?? | |
オレアル いいや? 彼女の言葉は至極論理的だぞ。 ひきかえお前の言ってることは、 主観的な感情論だ。 | |
ヴァーリ わかってるよ、そんなことは!! | |
オレアル そうか、それならいい。 それじゃ、俺たちは行くぞ。 | |
ヴァーリ ねえ待って、グレーテ! せめて、サキーとその作り主の姿を、 ひと目だけでも見て行ってよ! それくらいはいいでしょう?! | |
グレーテ ……… | |
オレアル ───まったく。 面倒な奴に会ったのが運の尽きだな。 | |
グレーテ 仕方ないな。 見るだけだ、干渉は一切しないぞ? | |
ヴァーリ うんっ!!! ありがとう!!! | |
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オレアル なんだ、ずいぶんにぎやかだな? どれが人形で、誰が作り主なんだ? | |
ヴァーリ あれー? どうしてこんなに人が集まってるんだろう? | |
ユマー ういぃぃーーー ぷはぁ! | |
ユマー おい、そこの職人、 そこに座っている娼婦、 走り回っておるがきんちょども! これが最後の戯言じゃ、 水汲みのついでに、とくと聞いて帰るがいい! | |
ヴァーリ ああ、あれだよ! 真ん中で、へべれけになって叫んでるおじいさん、 あれが作り主の、ユマー様だよ! | |
グレーテ 傍らで酒瓶を抱えている子供が、 人形だな。 | |
サキー ……… | |
ユマー お前ら見たか、聞いたか、ああ? そうでなければおまえらは、 みな盲じゃ!つんぼじゃ! この水面を見よ、この空の色を見よ! 彼が来ている! 風の音を聴け、これが彼の声じゃ! すぐ近くに来ておるのじゃ! | |
ユマー よいか、その名はヴィーダル! 何度でもいうぞ、ヴィーダルじゃ、ヴィーダル! ───ああ、清々するのう、 この名を口に出せる日がとうとう来たんじゃ! 見るがいい、誰もわしを咎めに来はしない、 ほうれ、あの呆けた役人の顔を見ろ、 奴には意味が分からんのじゃ! いい気味じゃのう、がはははは! | |
ヴァーリ うわー。 アル中じいさん、絶好調だなー。 | |
オレアル ま、言ってることは正しいが……。 もっと適切な態度があるだろうに。 | |
グレーテ あるいは、気が触れたようなふりをして、 皆の気を引こうとしているのかもしれん。 | |
オレアル うむ、なるほどな。 正面から順序だてて説明したところで、 理解する者はいないだろうからな。 | |
子供 ねーねー。 聞いてもいい―? | |
ユマー うん? なんじゃね、ぼうや。 | |
子供 びいだる様って、 いったいどこから来るの―? | |
ユマー おお、そうじゃな… わしの見立てではおそらく、 あの森じゃ! | |
職人 森って、あの「絶望の森」から? | |
娼婦 あそこは禁忌の森だよ。 誰も立ち入らないし、一歩でも入ったら最後、 二度と帰ってこれないって噂だ。 | |
ユマー ほほほほ。そうじゃ。 だから、禁忌が破られるのじゃよ! 下品で無意味な戒律など、 みんな消えてなくなるのだ! 彼の到来によってな! | |
子供 わー。 しゅごーい! | |
娼婦 あはは、そりゃいいね! それが本当ならね! | |
職人 ばっかだなぁ、そんなことありえないよ。 常識で考えてごらんよ。 | |
オレアル ……うむ。 やはり子供の感性は、大したものだな。 ───さて、とくに問題はないようだし、 そろそろ行こうか、グレーテ。 | |
ヴァーリ いやいやいや、そんなことないでしょ! あの子の、サキーの顔を見てよ! あれを見ても、問題がないなんて言えるかい?! | |
オレアル ああ。 ないだろうな。 | |
ヴァーリ あーーーもう!!! グレーテ!! 君はどう?! 君もオレアルと同じなの?!! | |
グレーテ ……先に聞いておこう。 君にはどう見えるんだ? ヴァレリアン。 | |
ヴァーリ 僕? 僕はね、もう、 いまにも胸が張り裂けそうだよ!! 見ていられないよ!! 想像してごらんよ、 兄さんが来たら、彼は捨てられちゃうんだよ! でもほんとのことは言えないよね、 ご主人があんなにはしゃいでるのにさ?! そうだよ、言えるわけないじゃないか!! うわーーーーーん!!! | |
グレーテ 落ち着け。 それは、単なる投影だ。 | |
オレアル そうだな。 お前の想像でものを言っているだけで、 実際のところは分からない。 だいたい、ヴィーダルが来たらサキーが捨てられる とお前は言うが、それだって勝手な決めつけじゃないか。 そもそも、お前が決めていい問題ではない。 | |
ヴァーリ じゃあ、もし捨てられちゃったら、 どうするの!!! | |
オレアル その時はその時だ。 | |
ヴァーリ うわーーーー 鬼ーーーー! 悪魔ーーー! 死神ーーーー!!! | |
オレアル ……… それがどうした。 | |
グレーテ だいぶ興奮しているな、 今は何を言っても無駄だろう。 | |
オレアル うむ。 仕方ない、放っておくしかあるまい。 それじゃ、森へ急ごう。 | |
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…………… …………… | |
ヴァーリ うーん! 今日もいいお天気だなー! | |
ヴァーリ 兄さんがやってきて、 世界の何もかもが生まれ変わった! ───なーんてことにはならなかったけど、 無事にお迎えが済んでよかった、よかった。 | |
ユマー ういぃぃーーー、 ひゃっく! | |
ヴァーリ あ! あそこにいるのは……! | |
ユマー これサキーや。 酒を持ってきてくれたのかえ、 ああ、ありがとうよ。 | |
ヴァーリ ユマー様! 僕はサキーじゃありませんよ! | |
ユマー おお、そうかえ? それは済まなんだ、 さっき使いにやった子供なんじゃがのぅ、 お前さん見なかったかね? | |
ヴァーリ え?! そ、それじゃユマー様、 サキーはまだ、あなたの所にいるのですね?! | |
ユマー なんじゃ、急に大声を出したりして? へんな若造じゃのう? | |
ヴァーリ うわーーー。 僕のことはすっかり忘れてるみたいだけど、 そんなのはいいんです! サキーは捨てられてないんですね! ああよかった!! | |
ユマー お? おお、戻ってきたようじゃわい… | |
サキー? お待たせしました、 ユマー様! | |
ユマー ご苦労じゃったのう、酒は酌んできたか? …… おお、そうかそうか、ありがとうよ。 | |
ヴァーリ え… あの子供が、サキーって …… いったい、どういうこと??? | |
ヴァーリ ……!!! | |
ヴァーリ やっぱりあの子、 捨てられちゃったんだーーー! うわーーーーーー | |
オレアル おい、翻訳機。 仕事か? 精が出るな。 | |
ヴァーリ あー、オレアル!! ねえどうしてくれるの、サキーが消えちゃったよ! やっぱり僕の言ったとおりだったじゃないか! どうしてくれるんだよーーー!!! | |
オレアル まったく… そんなこともわからないのか? お前はヴィーダルの弟だろう。 | |
グレーテ それは仕方がない。 彼はそのように作られているのだ。 理解と誤解を等しく内包している。 誤解を理解するためにな。 | |
オレアル それじゃ、放っておくしかないか…。 | |
ヴァーリ うわーーーーーん!!! | |
グレーテ ヴァレリアン。 気が済むまで泣いたらいい。 それは悪いことではない。 | |
ヴァーリ ひどいよーーー オレアルの人でなし――― 鬼ー、死神ーーーー!!! | |
グレーテ 怒りもそのままにしておけ。 無理に抑えれば、苦しみとして残るだろう。 | |
ヴァーリ うう… ひっく、ずずず… | |
グレーテ お前の怒りが心の泉を湧き立たせ、 蒸発して干上がってしまっても、うろたえるな。 水は天に還り、また地上へ巡ってくるのだから。 | |
ヴァーリ ………… | |
グレーテ その過程を目の当たりにすることが、 理解を呼ぶ。─── 見なければ、それは嘘のままだ。 真実は、見られることで、 真実として受け入れられる。 | |
ヴァーリ ………… くかー。 すぴー。 | |
グレーテ ……… | |
オレアル せっかくの説教が、無駄になったな。 | |
グレーテ いや、かまわん。 これも、彼の役目だ。 | |
オレアル なるほどな。 ……それじゃ、行くか。 | |
グレーテ ああ。 | |
ヴァーリ むにゃむにゃ… サキー、どこにいるんだよぅ…。 むにゃむにゃ……… | |
サキー? ユマー様。 聞いてもいいですか? | |
ユマー なんじゃ。 | |
サキー? この大きな泉は、 いったいいつできたのでしょう? みんな、不思議がっています。 | |
ユマー そうじゃのう。 だがそれが分かったとて、何になる? | |
サキー? はあ。 | |
ユマー あるいはまた、いつ干上がるかもしれん。 だが、そんなことを心配して、何になる? | |
サキー? うーん。 | |
ユマー 後先を考えたとて、それが何の役に立つというのか。 それができる奴ほど、利口でえらいやつだと、 かつては思われていたがのう。 それも、終ったことだ。 彼がやって来たのだからな。 ……… | |
ユマー サキーや。何も心配することはないんじゃ。 考えるなんてのはな、しょせん呆け者のすることよ。 ほほほほ… さあ、わしは少し、眠るとしよう。 ……… | |
……… ……… すぴーー。 ぐががーーー。 | |
〜〜おしまい〜〜 |